研究概要 |
ミトコンドリアATP感受性K^+(mitoK_<ATP>)チャネルによる虚血心筋保護のメカニズムをミトコンドリアCa^<2+>過負荷軽減とアポトーシス抑制の両面から検討し,以下の実験結果を得た。 (1)単離したラット心室筋細胞にCa^<2+>感受性蛍光色素であるrhod-2-AMと膜電位感受性色素であるJC-1をそれぞれloadingし,ミトコンドリア内Ca^<2+>濃度と膜電位を測定した。心筋細胞にouabainを作用させると,ミトコンドリア内Ca^<2+>濃度は増加した。MitoK_<ATP>チャネル開口薬であるdiazoxide存在下にouabainを作用させた場合,ミトコンドリア内Ca^<2+>濃度の増加が有意に抑制された。このdiazoxideの効果はmitoK_<ATP>チャネル遮断薬である5-hydroxydecanoate(5-HD)により完全に消失した。一方,ouabain存在下にdiazoxideを作用させるとミトコンドリア内膜電位が脱分極し,JC-1の蛍光強度は投与前の89%まで有意に減少した。この変化は5-HDにより消失した。 (2)MitoK_<ATP>チャネル開口薬であるニコランジルとミノキシジルを使って同様の実験を行なったところ,ニコランジル,ミノキシジルともにouabainによるミトコンドリアCa^<2+>過負荷を軽減した。 (3)細胞膜ATP感受性K^+チャネルの構成サブユニットであるKir6.2のノックアウトマウスでは,プレコンディショニングによる心筋保護効果が消失することを明らかにした。しかしながら,Kir6.2またはKir6.1ノックアウトマウスともにmitoK_<ATP>チャネル機能は保持されており,diazoxideはミトコンドリアCa^<2+>過負荷を軽減した。 (4)H_2O_2により惹起された心筋細胞アポトーシスがdiazoxideの前投与にて抑制された。このdiazoxideの効果は5-HDにより消失した。 以上より,mitoK_<ATP>チャネルが活性化されるとミトコンドリア内膜電位が脱分極し,ミトコンドリア内へのCa^<2+>流入が抑制されて心筋保護作用を発揮することが示唆された。また,mitoK_<ATP>チャネルがアポトーシス抑制のtriggerとして機能することが示唆された。
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