研究概要 |
【はじめに】我々は門脈-肝臓領域Na^+受容器を介する体液調節機構に関し,受容機構(NKCC1),求心路,中枢経路,遠心路,効果器を明らかにしてきた。門脈-肝臓領域は腸管から吸収されたNa^+が体循環系に流入する前に通過する場所であり,長期にわたる高NaCl食摂取により,高Na^+濃度に曝されることになり,受容器発現および受容器感度が何らかの影響を受ける可能性がある。本年度の研究ではこの可能性を調べた。 【方法】Sprague-Dawleyラットを用い,7週齢〜11週齢にかけて高NaCl食負荷(3%Na^+)を行った。RT-PCR,Western blot法により肝臓でのNKCC1のmRNAおよびタンパク発現量を調べた。また,関門脈内高張NaCl投与に対する肝臓求心神経活動を記録し,受容器感度を測定した。これらの結果を正常NaCl食(0.3%Na^+)で飼育したラットの結果と比較した。 【結果と考察】4週間の高NaCl食負荷によりNKCC1のmRNAは正常食塩食群の59%に(両群ともn=8,p<0.05),タンパク量は49%に(両群ともn=8,p<0.05),それぞれ有意に減少した。また,関門脈内高張NaCl溶液投与に対する肝臓求心神経活動増加は,高NaCl食負荷群では正常NaCl食に比べ50%以下に有意に抑制されていた。以上の結果により,高NaCl食負荷によりNKCC1の発現が抑制され,門脈-肝臓領域Na^+受容器感度が低下することが分かった。本研究により肝臓NKCC1の発現に影響を及ぼした因子を特定することは出来ないが,アルドステロンあるいはバゾプレッシンなどのホルモンが関与している可能性が考えられる。アルドステロンは大腸のNa^+チャネル,腎臓のNa^+チャネル,Na^+K^+ATPase発現に関与し,バゾプレッシンはヘンレループ上行脚太い部のNKCC2発現に関与することが報告されている。今後,肝臓NKCC1の発現に影響を及ぼした因子を特定するため,これらの体液調節に関わるホルモンのNKCC1発現に及ぼす影響について検討する必要がある。
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