研究課題
生体には経口的に摂取した食品成分に対して、免疫反応を抑制しようとする経口免疫寛容機構が腸管組織に備わっている。食物アレルギーの発症は、この食品に対する経口免疫寛容機構がうまく働いていないために引き起こされているとも理解される。本研究は、経口免疫寛容のモデル動物を用いて、様々な栄養状態において食物に対する経口免疫寛容の獲得に与える影響について検討するものである。本年度の研究では、宿主のタンパク質食を20%とし、タンパク質の質についてカゼインと分離大豆タンパク質の違いが経口免疫寛容に与える影響を調べた。経口免疫寛容を誘導したモデル動物は、BALB/cマウス(4週齢・雌)を用いた。動物は食物アレルゲンタンパク質として5mgの卵白アルブミンを含む水溶液(0.5ml)を1日1回、4日間連続して胃内に強制経口投与し、その4日後と18日後に5μgの卵白アルブミンを水酸化アルミニウムによるアジュバントで腹腔内に免疫した。その結果、卵白アルブミンに対する経口免疫寛容は血清IgE抗体で、分離大豆タンパク質食群がカゼイン食群に比べて強く誘導される結果を得た。つまり、経口免疫寛容を誘導した動物の血清総IgE量および卵白アルブミンに対する血清特異的IgE価は、分離大豆タンパク食群でカゼイン食群の動物に比べて低く抑えられていた。一方、卵白アルブミンに対する血清中の特異的IgGおよびIgG1は、カゼイン食群および分離大豆タンパク質食群共に経口免疫寛容を誘導した動物で抗体価の抑制はみられなかった。経口免疫寛容を誘導する栄養状態では、昨年度までの研究成果と合わせて、タンパク質食の量と質の両面に影響を受けていることが明らかとなった。また、経口免疫寛容を強く誘導することが食物アレルギーの予防にも繋がると思われるが、タンパク質源として大豆タンパク質の有用性も示唆された。