高調食塩水中枢内投与時の昇圧反応が、ニューロン活性に与える影響の検討:我々は、投与食塩水濃度が0.67Mまでは濃度依存的にFosの発現が増加するが、1.0Mを投与すると逆に減少傾向を示すことを報告した。0.67Mと1.0Mの濃度の食塩水投与時の昇圧反応は17.0±3.1mmHgと26.5±4.0mmHgと有意に上昇していることから、より大きな血圧上昇が逆にニューロンの活性を抑制しているものと推測される。そこで、ニトロプルシッド(SNP)を同時に末梢に持続注入しながら1.0M高張食塩水投与時の昇圧反応を打ち消しあった時(高張食塩水投与時の昇圧度は-3.4±3.8mmHgへ低下)のFos発現を検討した。以前の報告では、Fos発現の増加が、降圧時に視床下部のニューロンも含めてみられるとされる。しかし、我々結果からは、高張食塩水脳室内投与時の昇圧反応を打ち消しても、それぞれの領域において予想に反して減少していた。したがって1.0M高張食塩水投与時のFos発現減少は、昇圧反応のみでは説明が難しく、それ以外の因子、例えばストレスによるものも考慮する必要がある。現時点では判定に十分な数の結果を得ていないが(降圧反応にラットの個体差が大きいため)、0.67Mの高張食塩水投与時に、より緩やかな降圧反応を引き起こすミノキシジル(minoxidil)と即効的な降圧を引き起こすSNPをそれぞれ投与した時の視床下部のFos発現の違いも検討してみた。これは、降圧のストレスとしてはSNP投与のほうがより大きいと仮定した。0.67Mの高張食塩水投与時の昇圧度はミノキシジル末梢投与時:-3.7±1.9mmHg、SNP末梢投与時-7.9±0.7mmHgに低下している。SNP投与時にFos発現の減少傾向がより大きいことから、ストレス反応による抑制も考慮に入れる必要があると考えられた。 心不全モデルラットにおけるPVN、SONニューロンの活性とそれに対する内因性バゾプレッシン系の影響:心不全モデルラットを作成し、中枢内浸透圧受容部位を刺激した際のSON、PVNのニューロンの感受性がどのように変化しているかを検討した。さらに、内因性のバゾプレッシン系による活性修飾も検討した。心不全モデルラットは左冠動脈前下行枝を開胸直視下に結紮し、3週間以上の回復期をおいた慢性心不全ラットを作成し実験に用いた。Fosの評価はPVNはPVM : medical(OTニューロンが優位に分布する)、PVL : lateral(AVPニューロンが優位に分布する)、PVDC : dorsomedial cap(脊髄に投射するニューロンが存在する)、e-PVN : entire(それ以外も含めたPVN全体)の部位に分け、比較検討した。正常ラットの脳室内に0.67Mの高張食塩水を投与した際のFos発現を検討するとバゾプレッシンV_1レセプター拮抗薬の前投与により、脊髄へ投射し自律神経の出力に影響するPVDCのニューロン活性が有意に増強した。すなわち、内因性バゾプレッシン系は交感神経の出力に影響し、抑制的に作用している可能性がある。しかし、慢性心不全モデルラットの結果ではその有意な抑制が消失している。したがってこの結果から、慢性心不全状態で交感神経系が亢進状態にあるとの報告との関連が示唆される。
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