哺乳類の概日リズムの中枢である視交叉上核では、個々の紳胞が固有の振動体を持っており、その細胞群は集団として一つのリズムを形成している。本研究は、各細胞が個々のリズムを同調させて一つのリズムを形成しているメカニズムを培養系を用いて調べる事を目的としている。今年度は、(A)細胞を分散させて培養した時の個々の細胞のリズム、(B)分散させた細胞の集団のリズム、及び(C)細胞を分散させずにスライス(組織)として培養した時のリズムについて比較した。(A)は電気活動のリズム、(B)と(C)はバゾプレッシン分泌リズムを指標として検出した。 自由継続周期の長さは、分散培養とスライス培養で若干異なる。分散培養では、個々の細胞と細胞の集団とでは平均値は等しいが、ばらつきは細胞集団のリズムの方が小さかった。また、分散培養とスライス培養のバゾプレッシン分泌リズムを比較すると、スライス培養の方がリズムがシャープで振幅が大きかった。これらのことから、個々の細胞は、何らかの相互作用により同調して集団としてのリズムを作っていることが示唆された。この相互作用は細胞を分散させた状態でも観察されるが、神経連絡を保ったスライスの状態ではより強くなる事から、液性因子、及び神経連絡の両方が同調機構に関わると考えられる。(第8回時間生物学会(2001年11月)で発表) 一方、外部からの刺激による同調(entrainment)に関しては、まだ予備実験の段階ではあるが次のような結果を得ている。網膜で受け止めた光刺激の信号は網膜視床下部経路を通って興奮性アミノ酸によって視交叉上核に伝えられる。スライス培養のバゾプレッシン分泌リズムでは興奮性アミノ酸は光刺激と同様なリズムの位相変化を引き起こすが、分散培養では、興奮性アミノ酸は何も引き起こさず、その代わりVIPが同様な位相変化を引き起こした。分散培養の個々の細胞の電気活動リズムについては、興奮性アミノ酸、VIPとも反応する紳胞としない細胞があった。このことから、視交叉上核の各細胞間の情報伝達の経路を推察する事が出来ると考えている。(第79回日本生理学会大会(2002年3月)で発表予定)
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