今年度は昨年度に引き続き、細胞間の同調因子と考えられているGABAについて、培養視交叉上核細胞に対する影響を調べた。その結果、バゾプレッシン(AVP)分泌リズムは、GABAに対してこれまで報告されているのと異なった位相反応を示すことが確認された。ほとんどの場合GABAによる位相変化は一時的であるが、特定の非常に狭い時間帯に投与されると大きな位相変化を引き起こした。さらに、個々の細胞の電気活動リズムに関しては、GABAによってリズムの位相が変化する細胞と変化しない細胞があることがわかった。これらの結果から、AVP細胞のリズムはGABAによって位相変化するが他のGABAによってリズムが影響を受けない細胞に同調し元の位相に戻る、ただしある範囲を超えて大きく位相変化した場合には制御が不可能になる可能性が示唆された。一方、GABAが同調因子であるならばGABAのアンタゴニストによって脱同調が起こると考えられる。しかし、GABAのアンタゴニストはAVP分泌量を増加させるもののリズムの減衰は引き起こさなかった。GABAが細胞間の同調機構に深く関わっている可能性は低いと考えられる(2003年9月国際時間生物学学会で発表)。 一方、細胞を分散させないスライス培養においても、新しい知見が得られた。視交叉上核は、光の入力経路が投射している腹側と背側では機能に違いのあることが推察されている。視交叉上核のスライスを上下に切り離して腹側と背側を別々に培養してAVP分泌リズムを測定すると、腹側のリズムの周期は切り離さない時の周期と同じであるが背側のリズムはそれより短い周期を示すことがわかった。このことは、腹側の細胞と背側の細胞では周期の長さが異なり、腹側の細胞が背側の細胞をコントロールすることによって視交叉上核全体が同調していることを示す。(200年6月日本生理学会大会で発表予定、論文投稿中)
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