本研究では実験形態学的手法を用いてエストロゲン受容体βの排卵調節における生理学的役割を明らかにする。視索前野脳質周囲核(AVPV)において見いだしたERβの発現及び分布の機能的な解析を、雌性化及び雄性化の2つの動物モデルを用いin situ hybridization組織化学により行った。その結果、ERβmRNA発現ニューロンの分布が著しい性差を示すこと、この性差が新生仔期のステロイドホルモンの影響で成立することを見出した。ERβタンパクに対する免疫組織化学により、タンパクの発現にも同様の性差を確認した。ERβmRNAとERαタンパクの同一切片上での可視化により、ERβmRNA陽性細胞の83%にERαタンパクの共存を認めた。さらに、雌ではERβmRNA陽性細胞がドーパミン作動性細胞と一致して分布することを認め、ERβmRNA陽性細胞の18%がチロシン水酸素化酵素免疫陽性タンパクとの共存を認めた。 次に、生体内でのERβの生理機能的な解析を行った。性的に成熟した8-9週令雌を用い、ERβのアンチセンスオリゴヌクレオチドを脳に投与し膣垢周期を調査した。ERβのアンチセンスオリゴヌクレオチドを脳に局所的に投与することによって、膣垢周期で連続発情の成立を認め、発情期が対照群と比べ有意に増加していた。この時ERβ免疫陽性細胞数は、スクランブルオリゴヌクレオチド投与群に比して50%減少していた。以上の結果から、ERβが排卵時の性腺刺激ホルモンの分泌調節に関与していることが示唆された。これらの結果を論文にまとめ米国アカデミー紀要に投稿した。論文は受理され同雑誌に掲載された。 AVPVにおいて発現のみられたERβ陽性のほとんど多くの細胞がERαを有していた事実は、両受容体の相互作用によって排卵調節が行われる可能性を示唆している。ERβのアンチセンスオリゴヌクレオチド及びERαアンチセンスオリゴヌクレオチドを単独で、あるいは、両者を混合しAVPVの近傍に局所投与し、黄体形成ホルモンの血中濃度の変化について、現在検討を進めている。
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