本研究では、ヒトの体位変換時の血圧調節反応に及ぼす加齢の影響を調べるために、60歳代と20歳代の正常血圧を有する健康男性を対象に研究を行った。 まず、13年度は、体位変換を模した中心血液量減少負荷として下半身に陰圧を段階的に負荷し、その際の動脈圧反射機能をシークエンス法により調べ、以下の結果を得た。 1.安静時の動脈圧変化(mmHg)に対するRR間隔の変化(ms)は、若年者より高齢者で有意に低下していた。 2.段階的に下半身陰圧負荷を漸増したとき、若年者では動脈圧反射機能が負荷に応じて低下したが、高齢者では低値のまま変化しなかった。 以上の結果から高齢者では動脈圧反射機能は若年者に比べて低下しており、中心血液量減少時の圧反射機能の変化が高齢者では見られないことが判明した。 さらにこの原因を調べるために、14年度は、動脈圧変化の入力部のひとつである頚動脈洞近辺の加齢に伴う伸展性の変化が、圧反射の応答を変化させていると仮定して、頚動脈伸展性を超音波診断装置により、圧反射機能を薬理学的に評価し、両者の関連を調べた。 1.動脈の中内膜肥厚は高齢者のほうが有意に厚く、頚動脈圧と心周期に伴う径の変化から算出した頚動脈コンプライアンスは高齢者のほうが有意に低かった。また両者の間に正の相関関係が認められた。 2.昇圧剤および降圧剤静脈内投与時の一過性の動脈圧変化(mmHg)に対するRR間隔の変化(ms)は、昇圧時も降圧時も若年者に比較して高齢者の方が減弱していた。 3.頚動脈のコンプライアンスと心拍の圧反射機能との間には正の相関関係が認められた。 以上の結果から体位変換を模した中心血液量減少時に高齢者において心拍の圧反射応答が低下したままである原因のひとつとして、高齢者では頚動脈壁の伸展性が低下していることが、頚動脈における圧変化の心臓血管運動中枢への入力を減退させる為に起きるという可能性が示唆された。
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