長時間拘束ラットでは、視床下部室傍核のc-fos mRNA、Fos蛋白の発現は一旦増強されたあと、それぞれ2時間目、16時間目には基礎値に戻る。血中ACTHも一過性に上昇した後、拘束継続中にもかかわらず8時間後には基礎値に戻った。しかし、コルチコステロンは、1時間目にピークに達した後、4、8、16時間後でも高値が持続した。末梢血中のリンパ球・ヘルパーT細胞、NK細胞数も2時間目に最低値に達した後、漸増して16時間後には基礎値近くまで回復した。このように、長時間拘束ラットでは、一過性に反応したHypothalamic-pituitary-adrenal(HPA) axisは、コルチコステロン以外は、次第に減弱して、適応現象がみられる。この適応現象がみられた拘束1時間目に、新奇ストレスとして寒冷ストレスを加重負荷すると、室傍核のc-fos mRNA、Fos蛋白発現は、いずれも対照群と同程度に増強された。寒冷加重負荷によりACTHは、対照群以上に上昇したが、コルチコステロンは、高値を示していたので、わずかに上昇したのみで有意差は認められなかった。これらの結果は、長時間拘束により適応状態にあるラットに寒冷ストレスを加重負荷した場合のストレス応答は減弱はせず、その程度はHPAの各レベルで異なっていることを示唆している。次に、ラットに1日に1時間のチューブ拘束のみを1〜2週間行った単独拘束群と寒冷(4℃)+拘束群の2組に分けて実験を行った。単独拘束群ではコルチコステロン、ACTHとも、次第に反応が減弱して、馴化現象がみられた。視床下部室傍核のc-fos mRNAとAVP heteronuclear RNAも同様の傾向がみられたが、オレキシンmRNAは発現されなかった。一方、寒冷+拘束加重負荷群では、血中コルチコステロン、ACTH値は漸増し、馴化現象は認められなかった。このように、長時間拘束では、HPA応答に適応現象がみられ、この状態でも新奇ストレスへの反応は充分残っていること。また、反復ストレス負荷に対する反応は、ストレスの種類によって、馴化現象や増強作用が認められること、また、反応の強さもHPA軸の各レベルで異なっていることが明らかになった。
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