研究概要 |
前脳基底部のマイネルト核や中隔野に起始し大脳皮質や海馬に投射するコリン作動性ニューロンを活性化すると、大脳皮質や海馬で代謝性の血管拡張とは無関係の血流増加反応が起こることがSatoらによって示されている。そこで本研究は前脳基底部の電気刺激による大脳皮質や海馬での血流増加が、一過性虚血による大脳皮質や海馬での遅発性神経細胞死を改善する可能性を明らかにすることを目的とした。これまでに、マイネルト核刺激によって大脳皮質血流を増加させておくと、一側総頸動脈の断続的結紮による大脳皮質血流の低下が防がれ、大脳皮質での遅発性神経細胞死が抑制されることを明らかにした。そこで本年度は、中隔野刺激による海馬血流の増加が海馬での遅発性神経細胞死を抑制する可能性を調べた。 両側椎骨動脈を永久結紮し、一側総頸動脈の断続的(5秒毎)結紮を60分間にわたって繰り返した。動脈結紮中、結紮した総頸動脈と同側の海馬において、血流が結紮前のコントロール血流の約70%に低下し、結紮の5日後に海馬CA1ニューロンの約20%に形態的損傷が認められた。中隔野に刺激電極を刺入し、結紮の5分前に開始し結紮終了時に終える、トータル65分間の電気的頻回刺激(0.5ms,200μA,50Hz,1s on/1s off)を加えた。中隔野刺激による海馬血流の増加は、結紮による海馬血流の低下を防いだ。また中隔野を刺激した場合には、海馬CA1ニューロンの遅発性神経細胞死は、ほとんどおこらなくなった。 以上の成績は、中隔野に起始する血管拡張系の活性化は、海馬における血流低下を防ぐことによって虚血によって誘発される海馬CA1での遅発性神経細胞死を防ぐ可能性を示唆する。
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