研究概要 |
[研究の背景と目的]近年、前脳基底部のマイネルト核や中隔核に起始し大脳皮質や海馬に投射するコリン作動性神経を活性化すると、大脳皮質や海馬で代謝性の血管拡張とは無関係の血流増加反応が起こることが示された。そこで本研究は前脳基底部の電気刺激による大脳皮質血流の増加が、一過性虚血による大脳皮質や海馬ニューロンの遅発性神経細胞死を改善するかどうかを明らかにすることを目的とした。 [研究方法]ラットの一側総頸動脈の断続的(5秒毎)結紮を60分間にわたって繰り返し、大脳皮質と海馬に軽度な血流低下を繰り返し起こし、軽度な遅発性ニューロン死を引き起こすモデルを作成した。海馬は椎骨動脈からの血流依存性が大脳皮質より強いため、海馬についての研究の際には、あらかじめ椎骨動脈を両側性に永久結紮しておいた。一側総頸動脈の断続的結紮中の大脳皮質あるいは海馬血流の反応をレーザードップラー血流計を用いて測定した。結紮後の大脳皮質および海馬の神経細胞死を組織学的に調べた。結紮した動脈と同側のマイネルト核あるいは内側中隔核に、結紮の5分前に開始し、結紮終了直後に終える、電気的頻回刺激(0.5ms,200μA,50Hz,1s on/1s off)を加えた。 [結果]マイネルト核刺激による大脳皮質血流の増加は、結紮による大脳皮質血流の低下を防ぎ、大脳皮質ニューロンの遅発性神経細胞死を抑制した。内側中隔核刺激による海馬血流の増加は、結紮による海馬血流の低下を防ぎ、海馬CA1ニューロンの遅発性神経細胞死を抑制した。 [結論]以上の成績は、前脳基底部のマイネルト核や中隔核に起始する血管拡張系の活性化は、大脳皮質や海馬における血流低下を防ぐことによって虚血によって誘発される大脳皮質や海馬ニューロンの遅発性神経細胞死を防ぐ可能性を示唆する。
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