イヌ心臓を麻酔下に抗凝固剤処置後に摘出し、洞結節領域を含んだ右心房筋標本を作製した。摘出心筋は人工呼吸下の麻酔供血犬のヘパリン化動脈血を用いて、洞結節動脈に新鮮動脈血を誘導し、100mmHgの定圧潅流を行った。 アデノシンの持続注入により、洞調律および心筋収縮力は抑制されるが、収縮力は徐々に回復する。一方、洞調律は一定に抑制されたまま持続する。すなわち、1.心臓ペースメーカーと収縮力に対するアデノシンの抑制作用に解離が観察された。この現象は用量依存的なものであった。また、2.アデノシンの持続注入の間には、アデノシンの単独投与による陰性変周期、変力作用は有意に抑制された(アデノシンによる急性脱感作効果)。しかし、同様な条件においてのアセチルコリンの単独投与による陰性変周期、変力作用は抑制されないばかりでなく、むしろ有意に増強されることが判明した。3.アデノシンの持続注入時にノルアドレナリンの作用は軽度ながら抑制された。さらに、4.心臓内自律神経線維の電気刺激による2相性反応は、アデノシン持続注入時に陰性反応は増強され、陽性反応はやや抑制された。 以上の成績が実験により確認され、生体のいたるところに存在し、心臓内にも豊富に存在するアデノシンは、それ自身の反応が脱感作され易いこと、ならびに生理的な心臓調整因子に大きな影響を及ぼすことが確認された。さらに病態生理、薬理的な研究に将来つなげていくことが、今後の課題といえよう。
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