摘出イヌ心房筋標本を用い、複雑な三次元構造を持つ右心房筋自由壁の心外膜側及び心内膜側からの活動電位を光学マッピング法により記録し、再分極過程の三次元的不均一性を検討した。右肺静脈-右心房接合部に存在する脂肪織を電気刺激し心臓内迷走神経を活性化して迷走神経誘発性心房頻拍を発生させ、アセチルコリン誘発性心房頻拍の発生メカニズムと比較検討した。心臓内迷走神経刺激時及びアセチルコリンの投与時ともに、Control時と比較して再分極過程の三次元的不均一性の増大は認められなかった。アセチルコリン投与時、プログラム刺激により84%で局所源性心房頻拍が誘発され、心臓内迷走神経刺激時には36%で同様な心房頻拍が誘発された。この時、早期刺激直前の活動電位の再分極勾配は小さく、伝導ブロックも認められなかった。また心臓内迷走神経刺激時には64%で一方向性伝導ブロックを認め、Macroreentryが発生した。この時の再分極勾配は大きく、心臓内迷走神経刺激による伝導ブロックは複雑な三次元構造ではなく、心外膜側および心内膜側表面の再分極不均一性の増大によって起こっていることが証明された。PACAP投与では、プログラム刺激により全例で局所源性心房頻拍が誘発され、再分極勾配は小さく、伝導ブロックも認められなかった。これらの研究より、局所源性心房頻拍発生に心房筋の複雑な構造の関与が強く示唆された。各種イオンチャンネル遮断薬によるイオン電流の空間的分布の実験から、Verapamil存在下でE-4031持続投与時、活動電位幅の延長率は右心房筋自由壁で左心房内肺静脈領域に比べ大きかったが、Verapamil存在下でZatebradineを持続投与した時、活動電位幅の延長率は右心房筋自由壁と左心房内肺静脈領域で差がなかった。これらの結果から、イオン電流によりその空間的分布に差のある可能性が示唆された。
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