小動物を用いた一過性虚血・再潅流による、ヒトの病態に近い、神経細胞障害(細胞死:アポトーシス)モデルを確立し、これに対する線溶系因子の関与を検討した。 I.脳虚血・再潅流モデル 1)げっ歯類に一過性の脳虚血を負荷すると海馬錐体細胞に遅発性神経細胞障害が観察されるが、我々はこの神経細胞死発現に先立ち、アポトーシスの特異的関連因子である、Caspase-3の活性化が観察されることを見出した。このことから遅発性神経細胞死がアポトーシスであることが明らかとなった。 2)海馬に神経細胞死が観察される条件を線溶系因子の一つである組織型plasminogen activator欠損マウス(tPA-/-)に負荷したところ、細胞死発現にWildタイプとの有意な差はなかった。 II.網膜神経細胞障害モデル 1)マウス眼内への圧力負荷にともない、虚血性の網膜神経障害が観察される。このモデルをtPA-/-マウスで検討したところ、Wildタイプに比べ、神経障害の程度は軽減されたものの、有意な差ではなかった。 2)マウス眼内へ興奮性アミノ酸NMDAを注入すると、網膜神経障害が発現する。TPA-/-マウスへのNMDA注入にともなう網膜神経障害は、Wildタイプに比べ、有意に軽減していた。 以上の結果から、内因性tPAは神経障害発現時に重要な抑制因子として関与していることが明らかとなったが、神経障害発現のメカニズムによりその関与が異なる可能性も示唆された。
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