心不全に関与する神経内分泌因子として、いろいろな生理活性物質が知られている。我々はそれらの因子の受容体を介する作用を調べるために、イソプロテレノール、フェニレフリン、アンギオテンシンII、エンドセリンなどをNa^+/Ca^<2+>交換(NCX)電流に直接作用させたが、変化が見られなかった。そこで、ターゲットを細胞膜の受容体ではなく、その下流の細胞内情報伝達経路を修飾する因子に着目し、モルモット心室筋細胞とラット心筋由来H9c2細胞を用いて、ホールセルクランプ法、RT-PCR法、ウェスタンブロット法などを組み合わせて、次の3つのテーマについて研究を行った。 (1)酸性プレコンディショニングのNCXに対する効果。 (2)活性酸素種(過酸化水素)のNCX活性化のメカニズム。 (3)NCXのmRNAおよび蛋白発現を調節する情報伝達系。 その結果次のようなことが分かった。(1)酸性プレコンディショニングは、PKCεの活性化を介してNCXとNHEの相互作用を弱め、Ca^<2+>過負荷を抑制する。(2)過酸化水素がNCXを活性化させる情報伝達系に2つの異なるメカニズムがある。その1つは、NHEの活性化を介する間接的なNCX活性化で、他はMEK活性化を介するNCXのチロシンリン酸化が関与する。(3)NCXのmRNA発現の調節に低分子量G蛋白質のRhoが関与する。今後、これらの研究をさらに発展させ、NCXに対する神経内分泌因子による修飾機序を明らかにし、心不全の予防および治療に役立てたい。
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