本研究では、膵β細胞におけるNOの生理的意義の解明を目的として検討を行なった。まず、膵ラ氏島内の構成型NO合成酵素(cNOS)の分布を調べた。α、βおよびδ細胞の指標であるグルカゴン、インスリンおよびソマトスタチンに対する抗体とNOS1あるいはNOS3に対する抗体を用いて膵ラ氏島を免疫二重染色し、共焦点レーザースキャン顕微鏡(Carl Zeiss LSM510)により観察した。その結果、NOS1はα、β、δ、PP細胞のいずれにも存在するのに対し、NOS3はβ、δ、PP細胞には存在するがα細胞には存在しないことが示された。次に、膵ラ氏島におけるNO産生機序の解明を目的として、最近開発されたNO蛍光指示薬DAF-2を利用した画像解析による検討を行った。ラットからコラゲナーゼ消化法により単離した膵ラ氏島にDAF-2 DAを負荷し、細胞に取り込まれたDAF-2の蛍光強度変化を共焦点レーザー顕微鏡で経時的に観察することにより、細胞内NO量の変化を測定した。グルコース濃度を2.8mMから7.0mMに上昇させると、ラ氏島内の殆んどの細胞でNO量の増加を引き起こしたが、特にβ細胞に富む中心部で大きな増加が認められた。グルコース濃度上昇に伴うNO量の増加は、NOS阻害薬であるL-NNA前処置によりほぼ消失した。また、ATP感受性K+チャネルの阻害薬であるtolbutamideや30mM KClも、ラ氏島細胞のNO量の増加を引き起こした。また、Ca2+チャネル阻害薬であるnicardipine存在下において、グルコース濃度上昇に伴うNO量の増加はほぼ消失した。以上の結果から、グルコースは、ラ氏島内の主にβ細胞の[Ca2+]cを上昇させcNOSを活性化すことにより、NO産生を増加させることが示された。以上の結果から、グルコース濃度に応じて、NOが膵β細胞内でcNOSにより産生されることが示唆された。以前の結果と合わせると、NOはグルコースにより膵β細胞内で産生され、グルコースによるインスリン分泌を低濃度では促進し、一方高濃度になると抑制する、内因性インスリン分泌調節因子であることが示唆される。
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