本研究では、膵ラ氏島におけるNOの生理的意義の解明を目的として、ラットから単離した膵ラ氏島、およびα細胞、β細胞を用いて、以下の検討を行なった。 1.膵ラ氏島に存在する構成型NO合成酵素(cNOS)の同定:免疫二重染色により、NOS1はα、β、δ、PP細胞のいずれにも存在するのに対し、NOS3はβ、δ、PP細胞には存在するがα細胞には存在しないことが示された。 2.グルコースによるNO産生:NO蛍光指示薬DAF-2を利用した画像解析により、グルコース濃度に応じてNOが膵β細胞内でcNOSにより産生されることが示された。 3.膵α細胞[Ca^<2+>]_iに対するNOの作用:Fura-PE3を利用した画像解析により、0あるいは2.8mMグルコースにより誘発されるα細胞の[Ca^<2+>]_iオシレーションをNOはPKGの活性化を介して抑制することが示された。 4.膵β細胞に対するNOの濃度依存的な2面性の作用:NOは50nM以下の低濃度ではPKGの活性化を介して11.1mMグルコースにより誘発されるβ細胞の[Ca^<2+>]_iオシレーションの振幅を増大するのに対して、それ以上の高濃度ではcGMPに依存しない機序で抑制することが示された。また、RIAにより、NOが低濃度では膵ラ氏島からのインスリン分泌を促進するのに対し、高濃度では抑制することが示された。 5.膵β細胞[Ca^<2+>]_iに対するcGMPの2つの作用:cGMPが電位依存性Ca^<2+>チャネルを介したCa^<2+>流入を促進する作用と小胞体へのCa^<2+>取り込みを促進する作用の2つの作用を有することが示された。また、パッチクランプ法により、cGMPがK_<ATP>チャネルを抑制することにより膜を脱分極させることが示された。 以上の結果から、cNOSにより産生されたNOが内因性のインスリンおよびグルカゴン分泌調節因子として機能していることが示唆された。
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