本年度は、光学顕微鏡による形態的観察、TUNEL法、アクリジンオレンジ(AO)染色、DNAラダーおよびアネキシン-V法によりアポトーシスを検出し、好中球アポトーシスについて以下のような知見を得た。 1)TUNEL法では炎症惹起24時間後から、単核球の細胞質内にTUNEL陽性小体が観察された。また、炎症惹起9時間後から、単核球の細胞質内にAO染色によって黄色〜緑黄色の蛍光を発する小体が観察された。滲出液中の細胞からDNAを抽出し、電気泳動で分離してヌクレオソーム単位のDNAの断片化を検出すると、炎症惹起5時間後からDNAラダーが検出された。 2)ライト・ギムザ染色した標本を光学顕微鏡で観察すると、単核球の細胞質内に濃い紫色に染まる小体が観察された。しかし、明らかにアポトーシス小体であると認められる好中球は、観察した炎症惹起7日後までのすべての時間経過に渡って観察されなかった。ただ、核の断片化が起っていると思われる好中球が極く少数(数万個に1個程度)観察された。TUNEL法、AO染色およびアネキシンV法によっても、単核球に貪食される前の単独の好中球がアポトーシスに陥っていることを示すものは観察されなかった。これらの結果はアポトーシスに陥った好中球は速やかに単核球に貪食されることを示唆している。 3)結論:このモデルでは炎症惹起7時間後位までに血漿滲出がおこり、滲出液量は19時間後にピークとなる。また、好中球は3〜5時間後に浸潤が始まり、24時間後にピークとなり、4日後にはピーク時の1%以下に減少する。この事から、当初アポトーシスが始まるのは24時間以降であろうと予想していた。しかし、DNAラダーの結果から、炎症惹起5時間後には好中球のアポトーシスは始まっていると考えられた。従って、炎症巣に好中球が浸潤し始めるのは炎症惹起3時間以降であることから、好中球の遊走直後あるいは早い場合には遊走過程中にすでにアポトーシスの引き金が引かれているものと考えられた。
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