前年度までの研究で、炎症巣における好中球アポトーシスは、炎症惹起後5時間からDNAラダーが検出され、非常に早い時期に好中球アポトーシスが開始されることを明らかにした。一方、DNAラダーとは異なるアポトーシスの指標であるTUNEL法では、炎症惹起24時間後に至って始めて単核球にTUNEL陽性顆粒が検出されることを明らかにした。本年度は、主に滲出液が排出されるリンパ節における各種遺伝子の発現を免疫組織化学的手法およびWestern blotting法にて検討した。 結果:胸膜腔内の滲出液が排出されるリンパ節の一つである傍胸腺リンパ節は、炎症の進展に伴い腫大した。この腫大に一致して皮質外側の辺縁洞から単核球および好中球が侵入し、これらの細胞は誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)を発現していた。更に、傍胸腺リンパ節では、炎症の進展に伴い樹状細胞にCOX-2発現が認められた。また、炎症惹起24時間後からTUNEL陽性細胞が検出された。 この他、肝クッパー細胞に炎症の進展に伴ったiNOS発現が認められた。また、胸腺の樹状細胞にiNOS発現が認められたが、これは炎症を起していない正常ラットでも認められ、炎症の進展とは関連性がなかった。 炎症巣の白血球からWestern blotting法を用いてアポトーシス促進蛋白であるBadが検出された。Badは9時間から検出され始め、19時間以降では強く検出された。一方、抑制蛋白であるBcl-xが炎症の進展に関係なくわずかに検出されたが、Bcl-2およびMcl-1は検出されなかった。 考察:従来、炎症巣に浸潤した好中球はアポトーシスに陥り、その場でマクロファージなどによって貪食されると考えられていた。しかし、胸膜腔のようにオープンな腔所では容易にリンパ液によって運ばれ、リンパ節に至るものと考えられる。単球系細胞によって貪食された異物は、リンパ節においてリンパ球に提示される。即ち、自然免疫から獲得免疫への橋渡しが行われ、炎症の修復と慢性化および自己免疫現象が交錯する場面であるように思われる。リンパ節において単核球および樹状細胞にそれぞれiNOSとCOX-2が検出される事実は、これらの現象へのNOおよびプロスタグランジン類の関与を示唆する。Badの発現がDNAラダーの出現よりやや遅いが、これは検出限界の違いによる可能性がある。
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