研究概要 |
本研究計画スタート時で得られていたマウス心筋の特殊性を要約すると: 1)マウス心筋では、他の動物種と異なり、α受容体刺激により陰性変力作用が出現し、これはNa+,Ca2+ -交換電流(NCX電流)の促進による。 2)マウス心房に対して、アセチルコリン(ACh)が陽性変力作用を発現し、これは心房内膜内皮細胞からのプロスタグランジン(PG)の遊離を介するものである。 本研究の目的は、これらの現象論的新知見に関して、そのメカニズムを更に深く追求することであるが、それぞれに関して本年度は下記の進展が得られた。 1)α受容体刺激による陰性変力作用の機序がNCX電流の抑制にあることを確定させる為に重要な役割を果たしたのが、SEA0400という化合物であった。これは、NCX電流を選択的に抑制する手段として用いたが、その選択性に関する検討がやや不十分であったので、今回これに力を注ぎ、高度のパッチクランプ技術を適用した。その結果、この化合物が極めて選択的にNa+,Ca2+ -交換電流を抑制し、Ca2+電流や、内向き整流および遅延整流性のK+電流には全く作用しないことを確認し、論文化した。このことにより、上記1)の知見の正しさが完全に確認された。 2)この現象の背景として、マウス活動電位の特色を詳細に検討し、マウスの特異な活動電位波形は、細胞外からのCa2+流入を極小化している為に、AChによるM2受容体刺激効果(K+チャネル活性化による活動電位の短縮)がマスクされ、逆にPG遊離による効果が顕在化することを示すことができ、論文化した。 大きな問題は、遊離されるPGの種類を確定することであるが、今年は薬理学的な検討を加え、作用の類似性や各種作用薬・拮抗薬の作用から、PGF2αとPGD2の可能性が高いことを示すと共に、遊離したPGがFPおよびEP受容体に作用して陽性変力作用を現すことを示した。
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