現在、神経伝達物質であるセロトニンの神経伝達に影響を及ぼす薬物が抗不安薬や抗うつ薬として臨床応用されている。また、セロトニンは血糖調節にも関連を有していることが推測されている。研究代表者は平成13年度にセロトニン系抗不安薬であるブスピロンやタンドスピロンが、ストレスにより誘発される高血糖を抑制すること、さらにグルコースによる高血糖を抑制することを明らかにした。また、ブスピロンやタンドスピロンのストレス誘発およびグルコース誘発高血糖抑制作用には、インスリン遊離促進作用が関与することを明らかにした。ストレスによる高血糖には副腎髄質から遊離されるエピネフリンが重要であることが知られている。そこで平成14年度、研究代表者はエピネフリンによる高血糖に対するタンドスピロンおよびブスピロンの影響について検討を行った。その結果、タンドスピロン、ブスピロンはエピネフリン誘発高血糖に対し、明らかな抑制作用を示すことを明らかにした。さらに、エピネフリンとタンドスピロン、ブスピロン投与時の血清インスリン濃度を検討した結果、両抗不安薬はエピネフリン投与時においてもインスリン遊離促進作用を有し、インスリン遊離促進作用により、エピネフリン誘発高血糖を抑制することを明らかにした。したがって、これらのセロトニン系抗不安薬はストレスによる不安のみならず、高血糖を抑制することがさらに明らかとなった。ストレスは糖尿病の誘因となること、また糖尿病を悪化させることが考えられることから、タンドスピロン、ブスピロンは糖尿病を伴う神経症の治療に有用であると考えられた。さらに、抗うつ薬であるイミプラミンの血糖調節に対する影響について検討した結果、イミプラミンは末梢投与だけでなく、中枢投与によっても血糖上昇を引き起こすことを明らかにした。このことから、イミプラミン使用時には血糖に配慮する必要があることが示唆された。
|