セロトニン系抗不安薬であるタンドスピロンやブスピロンがインスリン遊離促進作用を介して、種々の高血糖に対し抑制作用を示すことが、前年度までに明らかになった。これらの抗不安薬はアザピロン系化合物であり、生体内において1-(2-pyrimidinyl)piperazine(1-PP)に代謝されることから、1-PPがタンドスピロン、ブスピロンの作用に関与することが考えられた。そこで、1-PPの血糖調節、ストレスおよびエピネフリン誘発高血糖に対する影響について検討した。その結果、1-PPはマウスの血糖を降下させること、インスリン濃度を増加させることを見いだした。タンドスピロンやブスピロンもインスリンを増加させることから、1-PPがこれらの作用に関与することが考えられた。また、1-PPはストレスやエピネフリンによる高血糖をインスリンを増加させることにより抑制することを明らかにした。さらに、抗うつ薬であるイミプラミンの血糖上昇作用の作用機序について検討した。その結果、イミプラミンの血糖上昇作用はセロトニンの枯渇により拮抗されなかったことから、イミプラミンの作用にセロトニン受容体に対する直接作用が関与することが考えられた。そこで、種々のセロトニン受容体拮抗薬を用いて検討を行った結果、イミプラミンは中枢のセロトニン2C受容体遮断作用を介して血糖上昇を惹起させることを明らかにした。さらにイミプラミンと同じく三環系抗うつ薬であるクロミプラミンの血糖に対する影響について検討した。クロミプラミンはイミプラミンと同様に中枢のセロトニン2C受容体を遮断することにより、血糖を上昇させることを認めた。以上のことから、三環系抗うつ薬であるイミプラミンやクロミプラミンのマウス血糖上昇作用の作用機序を明らかにしたと考えられ、これらの抗うつ薬の使用に際しては血糖に配慮が必要であることが明らかになった。
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