誘導型シクロオキシゲナーゼ(COX-2)は、プロスタグランジン産生の律速酵素で、非ステロイド性抗炎症薬の標的として広く知られている。循環器系においては、プロスタサイクリンとそれに拮抗する作用を持つトロンボキサン産生のバランスがホメオスタシスに重要であるが、そのバランスの破綻が動脈硬化症など様々な病態と関連している。本研究では核内受容体PPARとの相互作用の観点から、COX-2発現の役割を検討し、以下のような成果を上げた。 1)血管内皮細胞を用いて、流れ刺激によるCOX-2発現誘導を検討した結果、リポカリン型PGD2合成酵素(L-PGDS)の誘導に比べ、流れ刺激に感度よく、迅速に誘導されること、それにはCOX-2プロモーターの活性化とmRNA安定化の両方が関与していることを明らかにした。この結果は通常の流れ刺激で、COX-2はプロスタサイクリン産生に関与しており、さらに強い流れ刺激が加わった場合にPGD_2が産生されることを示す。L-PGDSはPPARγ内因性リガンド候補(15d-PGJ_2)の産生に関わると想定され、COX-2とPPARの相互作用の視点から重要な知見と考えられる。なお本論文、及び以前より研究を続けている「PPARγを介するCOX-2のフィードバック制御機構」等の一連の研究成果により、第54回日本ビタミン学会学会奨励賞を受賞した。 2)レスベラトロール(Resv)は赤ワインに含まれる抗酸化物質で、循環器系などに有益な効果をもたらす。我々はResvが細胞特異的にCOX-2の発現を抑制すること、ResvがPPARα及びPPARγの選択的な活性化剤であることを見出した。Resvを投与したマウスは脳虚血実験モデルから脳を保護した。さらに、Resvによるこの脳保護効果はPPARα遺伝子欠失マウスでは見出されなかった。したがって、ResvによるPPARαの活性化は、中等度のワイン消費が心血管病、脳卒中、痴呆の危険度と負の相関を示す、いわゆる「フレンチパラドックス」を説明する新しい作用機構を提供し、PPARαが心血管病や脳卒中を治療する潜在的な分子標的であると考えられた(論文投稿中、特許申請中)。
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