本研究では、新規抗酸化酵素として見いだされたPrx4に関して、特に精巣での精子形成への関与の可能性について検討を行った。Prx4は分泌シグナルを有するため、通常は分泌され細胞外での抗酸化を担っていると考えられる。しかし、精巣では分泌シグナルが切断されない前駆体として存在する。この前駆体の出現が精子形成時と一致することや形態学的解析から、Prx4の精子形成への関与を想定して検討を行っている。 まず停留精巣モデルマウスにおけるPrx4の発現について検討したところ、モデルマウスでは分泌型の発現量には大きな変動は見られなかったが、前駆体Prx4のみが選択的に消失した。これは前駆体型Prx4が精子細胞の形態変化に関わるとする仮説を支持する結果と思われる。精巣は本来、身体の他の部分に比べて数度低い陰嚢内にあり、そのような低温環境が精子形成に必須である。停留精巣では腹腔にとどまることによって精巣は通常よりも高温条件に曝され、それが原因で精子形成障害が起る。その際の作用因子については明らかにされていないが、本結果から前駆体Prx4のプロセッシングを行う酵素活性の亢進が示唆される。このプロセッシング酵素の異常な活性化がアポトーシス誘導を行うなんらかのタンパクの分泌を促し、それが障害へと結びつく可能性も考えられる。現在Prx4遺伝子改変マウスの作成を進めている。 さらに、精巣のレドックス系として重要な役割を担うと考えているグルタチオンについても検討した。精子形成細胞はグルタチオン生合成の阻害剤であるBSOに対する感受性が低いことから、グルタチオン生合成能はほとんどないことが分った。また、グルタチオン還元酵素もほとんど発現していないので、酸化グルタチオンの再利用経路もない。遺伝子発現の様式から、精巣ではセルトリ細胞が酸化されたグルタチオンを還元し、他の栄養素や液性因子とともに精子形成細胞に供給している可能性が示された。
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