前年度開発した抗体、固定法を用いて、Rhoの局在を可視化した。 1.培養細胞 上皮細胞において、Rhoが細胞と細胞の接着面(lateral membrane)上に濃縮していることが明らかになった。Rhoの機能が細胞接着に必須であるという報告があることから、この分布は興味深い。非上皮細胞においては細胞膜への濃縮は弱く、細胞質にほぼ均一に分布していた。しかし、細胞分裂時にはほとんどのRhoが分裂溝へ濃縮し、それは上皮細胞でも同様だった。 2.生体組織 マウスの組織のホルムアルデヒド固定後の凍結切片を用いて、Rhoの分布を可視化した。上皮組織については、微絨毛という、突起の構造への濃縮が目立った。微絨毛の発達していない組織では、細胞質に均一に分布している場合もあった。神経組織では、神経細胞の細胞体にRhoの発現が少ないのが顕著だった。筋肉組織には一般に発現が少なかった。気管の繊毛、膀胱上皮など、特に強い発現を見せる部分もあるが、Rhoとそれらの機能との関連は全くついていないので、今後の研究の進展が期待できる。 3.Rhoの活性化と細胞膜への移行の可視化 Rhoが活性化すると細胞膜へと移行することの生化学的な証拠が報告されていたが、それを細胞レベルで可視化して確認した報告はない。今回、神経系のN1E115細胞と上皮系のA431細胞とにそれぞれ、LPAとEGFとを作用させ、Rhoを活性化させた。N1E115細胞では、細胞が突起を短縮させる反応を起こす時に、Rhoが細胞質から細胞膜へと移行していた。また、A431細胞においては、EGF刺激によってRho活性に依存して数十秒以内に微絨毛が伸長してくるが、その微絨毛にRhoが濃縮してくることが示された。このように、Rhoの活性化と膜への移行、細胞の形態形成とが時間的空間的に理解される基盤が整ってきた。
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