我々は血管平滑筋細胞の分化型形質維持可能な初代培養系を用いて、ヒト血清、mild oxidationされたLDL(moxLDL)、及び動脈硬化巣由来の脂質分画が強力な平滑筋細胞脱分化能を有することを見いだし、その脱分化因子が不飽和脂肪酸を側鎖に持つリゾフォスファチンジン酸(不飽和LPA)であることを同定した。平滑筋細胞の脱分化を来すシグナル伝達系を解析から、不飽和LPA刺激で協調的に活性化されるERK及びp38MAPKが平滑筋細胞脱分化のトリガーになり、脱分化平滑筋細胞が遊走・増殖することを明らかにした。この不飽和LPAの血管平滑筋細胞に及ぼす効果は短時間の不飽和LPA刺激で充分で、脱分化が不可逆的に進行する。これら培養系での知見をin vivoに応用した。ラットの総頸動脈に飽和(18:0)、不飽和(18:1)LPAまたはペプチド系増殖因子であるPDGFやEGFを一過性に処理し、その後の血管構造変化を解析した結果、18:1 LPAのみが著明な内膜肥厚を誘起させた。内膜肥厚部では平滑筋細胞の分化型形質の分子マーカーであるh-カルデスモン及びカルポニンの発現量が低下しており、脱分化した中膜平滑筋細胞の遊走・増殖により内膜肥厚が来したことが示唆された。この内膜肥厚は培養系での平滑筋細胞脱分化と同様、18:1LPA処理による中膜平滑筋細胞内でのERK及びp38MARKの活性化に起因するもので、ERK及びp38MAPKシグナル伝達系の阻害剤であるPD98059及びSB203580の投与で完全に抑制できた。以上の結果から不飽和LPAが動脈硬化症発症の強力な誘引因子である可能性が示された。
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