一酸化窒素(NO)は、多彩な生理活性を持つが、過剰のNOは細胞にアポトーシスを誘導し、糖尿病など種々の疾患の原因となる。しかし、NOによるアポトーシス誘導機構の詳細は明らかではない。本研究において我々は、小胞体(ER)ストレス経路を介するNO誘導性アポトーシスの新しい経路を発見した。 マクロファージ系RAW細胞に大量のNOを作用させるとアポトーシスがおこる。このアポトーシスはp53遺伝子を欠損させた細胞でも認められたため、DNA障害-p53経路以外の経路が働いていると考えられた。一方、ERストレス誘導性アポトーシスに関与することが知られている、転写因子CHOPが誘導されることを見い出した。RAW細胞やCOS-7細胞にCHOPを強制発現させるとアポトーシスがおこった。さらに、CHOPノックアウトマウス由来の、膵臓ラ氏島細胞や腹腔マクロファージはNO誘導性アポトーシスに対して抵抗性を示した。次にCHOPの上流を解析した。 ER膜に結合して存在する、ERストレスセンサー蛋白ATF6は、ERストレスによって限定分解を受けて活性化され、転写因子としてERシャペロンやCHOPの誘導などに働く。NO誘導性アポトーシスにおいてCHOPの誘導に先立ってATF6の活性化が認められた。RAW細胞およびCOS-7細胞に活性型ATF6を強制発現するとアポトーシスをおこしたが、このアポトーシスはCHOPのdominant negative formの共発現によって抑制された。以上の結果より、NO誘導性アポトーシスにおいて、ATF6-CHOPを介するERストレス経路が働いていることが明らかになった。また、CHOPによるアポトーシスはhsp70/DnaJ chaperone pairにより抑制された。今後はCHOPより下流の経路を明らかにするとともに、シャペロンによる抑制機構を明らかにしたい。
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