私達は焦点接着キナーゼ(FAK)分子族第2の非受容体型タンパク質チロシンキナーゼであるCAKβ/PYK2を研究している。CAKβは、細胞運動、細胞接着を調節する情報伝達に関与することが明らかになっているが、焦点接着ばかりではなく広く細胞質に存在する。CAKβのC末側領域にある859番のprolineをalanineに変えた点変異体を細胞に発現すると、この変異CAKβの細胞内局在部位は野生型とは違って核に局在した。この点変異体は、SH3 domainのリガンドとして働くCAKβの2つのPXXPモチーフの1つを破壊したものである。野生型CAKβも細胞質と核との間を行き来している事を示す結果を得た。核移行CAKβの機能は、未だ明らかでない。CAKβの関与するシグナル伝達路を更に明らかにするために、CAKβに結合・会合するタンパク質を酵母two-hybrid系を用いたスクリーニングにより検索した。CAKβに結合するタンパク質の一つは、転写因子などに対するSUMO ligase E3活性を有するタンパク質分子であった。H1299細胞にこのタンパク質を発現すると細胞内でのp53の増量をもたらし、p53レポーターの転写増強を引き起こした。この系に、CAKβを共発現すると、p53は滅少し、転写活性の抑制も観察された。これらの結果はCAKがFAKとは異なり核において何らかの作用を有していることを示している。CAKβに結合するHic-5は、アンドロゲン受容体による転写活性を促進するcoactivatorとして機能する事が知られている。
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