研究概要 |
我々は、オピオイド受容体μ、δ、κの類縁体であるROR-C受容体の内因性リガンド、ノシセプチン/オーファニンFQ(N/OFQ)の前駆体蛋白上に、N/OFQの痛覚反応を抑制する生理活性ペプチドを見いだし、ノシスタチン(NST)と名づけた。NSTとN/OFQは、脊髄後角においてはともに表層に存在し、各々の受容体を介してその作用を発揮することを明らかにしてきた。本研究では、NST受容体の解明および同一前駆体上に隣り合わせに存在し痛覚反応において相反する作用を有する2つのペプチドの産生、遊離機構および、産生調節を担うと考えられるペプチドのプロセッシングに関与する蛋白分解酵素の解明を目的とし、生物発光蛋白の導入さらに、その蛋白間のエネルギー移動を応用した方法(BRET)の確立を試みた。 1,NST受容体 マウス脊髄膜画分において、アイソトープ標識光アフィニティー修飾NST誘導体により約33kDaの結合蛋白が認められた。このバンドは、NSTの添加により消失するが、N/OFQによっては影響されないことから、NST特異的であった。また、この蛋白は、GTPγSの処理により消失したことより、G蛋白会合型受容体の可能性が示唆された。 2,ペプチドの産生、遊離機構 (発光酵素)-(NST-KR-N/OFQ)-(GFP)の融合タンパクの遺伝子ベクターを構築し、培養細胞に導入した。発光酵素として、Renilla luciferaseを用いた時、基質にセレンテラジン誘導体(DeepBlueC)を添加するとBRETが確認できた。さらに、分泌型発光酵素(Vargula luciferase)とEYFPを用いた融合タンパクプローブにより、細胞を破壊することなく培地を測定することによりBRETが確認でき、そのBRETの比は、ペプチド間のKRの切断の効率と一致していたことより、蛋白のプロセッシングモニター系が確立できた。この系を用い、NSTとN/OFQ間のKRの切断には、少なくともproprotein convertase (PC)1が、NSTの上流のKRには、PC1とfurinが関与していることを明らかにした。 以上の結果より、NSTとN/OFQの相反する生理作用は、受容体やプロセッシング酵素の差異により調節を受けていることが考えられた。
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