前年度の本研究において、エストロゲン作用を有する内分泌攪乱化学物質として知られるビスフェノールを幼少期の正常マウスに投与すると前立腺に炎症を誘発するが、プロラクチンノックアウトマウスでは炎症誘発が生じないことから、ビスフェノールによる前立腺の炎症誘発はそのエストロゲン作用により発現誘導されたプロラクチンによるものであることを明らかにした。こうしたプロラクチンの前立腺における作用機構を明らかにするため本年度においては、プロラクチン受容体(PRL-R)遺伝子の発現調節機構の解析を行った。ラットのPRL-R遺伝子にはこれまで3種類の第一エクソンE1-1、El-2、E1-3の存在が知られていたが、PRL-R遺伝子の5'領域の解析により、El-4とEl-5の2種類の新規の第一エクソンの存在することを明らかにした。これらの各第一エクソンは組織特異的な発現を担っており、El-4は脳特異的に発現し、また、El-5は主に肝臓と腎臓で発現している第一エクソンであった。ラットの前立腺において発現している第一エクソンをRT-PCRにより調べたところ、El-3エクソンの発現していることが明らかになった。すなわち、前立腺におけるPRL-R遺伝子の発現はE1-5第一エクソンに働く因子により調節されている。E1-3第一エクソンは広範囲の組織で発現しているが、その発現調節には転写因子のSP-1およびC/EBPβが関与していることが知られており、前立腺でのPRL-R遺伝子の発現もこれらの転写因子により調節を受けていることが考えられる。プロラクチンによる前立腺の炎症誘発におけるPRL-Rの情報伝達経路の解明が今後の課題である。
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