研究概要 |
インスリンは代謝調節、細胞増殖因子として生体必須のホルモンであり、その作用メカニズムを解明することは医学・生物学上極めて重要な課題である。我が国には約700万人の2型糖尿病患者がおり、4大疾患の1つに指定されている。それは標的細胞のインスリン作用不全に1つの主な原因があると考えられており、その病因の解明が緊急の課題となっている。インスリン刺激により短時間で強くリン酸化される基質はインスリンレセプター、IRS-1,-2,-3,-4,Gab-1,Cblなど多くのものが報告されている。APS (Adapter protein containing a PH and SH2 domain)もその一つである。その作用機作は明らかでないが、骨格筋・心筋・脂肪組織などインスリン標的組織で多く発現しているため、インスリン作用や細胞内へのグルコース取り込みに対して何らかの関与が予想されている。APSのインスリン作用に対する影響を、APSノックアウトマウスのインスリン反応性について検討した。空腹時、絶食時とも血糖値に差はなかったが、ipITT(腹腔内インスリン負荷試験)を行なうとAPSノックアウトマウスは対照に比較して、より大幅な血糖値の低下が見られた。グルコースクランプ法により、ノックアウトマウスはインスリン感受性の亢進が明らかとなった。従ってノックアウトマウスは少ないインスリン量で血糖値の低下を引き起こし、正常な血糖レベルを維持していることが分かった。APSはCblと結合して、レセプターのユビキチン化とレセプターの代謝に関係している可能性があるが、ノックアウトマウスのインスリンレセプター量は正常マウスのそれと変わりがなかった。APSが生体内でどのような機序でインスリンシグナル伝達ないし糖代謝調節に関与しているか検討を進めている。
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