ヒューマニン(HN)は、種々のアルツハイマー病関連傷害による神経細胞死から神経を保護することが見い出された24アミノ酸残基からなる分泌ペプチド因子である。本研究は、計画通りHNの構造機能分析などHN分子の基礎的解析を実施した。その成果を以下に報告する。 CD(円偏光二色性)解析と沈降法によるHN及びその変異体S14G-HN(HNG)の溶媒中での構造 HNもHNGも水中で二次構造を有し、生理食塩水中ではその構造が水中におけるものと全く異なり、HNとHNGの間でもその構造は違っていた。それらは、anti-pararell beta sheet構造をとっている様である。沈降法解析の結果、HNとHNGは、生理食塩水中で3量体以上のオリゴマーを形成するが、水中では主にモノマーである事が判明した。 HNの構造とその機能 HNの各アミノ酸残基のAla置換(Alaスキャン)は、HN分泌作用に影響はなかった。Argスキャンによって、Leu9-Leu11ドメインとPro19-Val20はHNの分泌に必須であることが判明した。Leu9のArg置換は、HNの細胞外への分泌機能を消失させた。Aspスキャンにより、L10Dは、HNを分泌させなくなりLeu10は必須アミノ酸残基であることがわかった。Alaスキャンにより、Ser7とLeu9はHNの二量体化に必須であることが判明した。また、HNの二量体化が神経細胞死抑制機能の本質的な過程であることが示唆された。 HNの活性化機構の解析 HNG(S14G)は、天然ライブラリーから単離されたHNの約1000倍の活性をもちHNが翻訳後修飾により活性体に変換される可能性が示唆されていたが、Ser14をD体化すると、その活性が約1000倍上がった。この結果は、HNの神経細胞保護作用はSer14のラセミ化によって調整されている事が示された。これは、特異的なラセメースの存在を示唆した。
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