研究概要 |
本研究はプロスタグランジン(PG)F合成酵素およびアラキドン酸代謝物の生理的役割および病態との関係を癌を中心に、生化学的、分子生物学的、免疫化学的、細胞生物学的研究により解明することを目的とする。不飽和脂肪酸であるアラキドン酸はシクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼにより各々種々のPGやロイコトリエン(LT)を生成する。PGやLTは中枢神経系から末梢臓器に至るまで生体内に広く存在し、神経系、免疫系、末梢臓器において様々な生理活性を惹起する生理活性物質である。代表研究者はPGF2α、9α,11β-PGF2を生合成するPGF合成酵素を発見し、その生化学的・分子生物学的研究を行ってきた。本酵素は323アミノ酸残基からなる分子量約37,000の単一鎖の蛋白質であり、NADPH存在下にPGH2からPGF2αを、またPGD2から9α,11β-PGF2を生合成する。本酵素は肺、肝臓、腎臓、筋肉、末梢血のリンパ球など全身に広く存在する。本年度は泌尿器系における本酵素の局在を正常と病態の組織を用いて生化学的、分子生物学的、免疫化学的研究を行った。本酵素は正常時および癌をはじめとする病態時においても存在するが、その分布および発現量は異なることが明らかになりつつある。今後、検体数を多く取ることにより本結果の再現性をとり、さらにアラキドン酸代謝に関与する他の酵素との関連も解明していく。 本年度はPGFとともにPG発見の端緒ともなり、PGF合成の基質ともなりうるPGEを合成する新たな酵素を生化学的、分子生物学的に明らかにした。今後は新たに見い出したPGE合成酵素の生理的役割および病態との関係をもPGF合成酵素とともに明らかにしていく。
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