[目的] 我々は最近、癌抑制遺伝子産物pRBと結合するタンパクとして分化抑制因子EID-1(EIA-like inhibitor of differentiation-1)をクローニングした。pRBはEID-1に結合することによってその機能を阻害し分化を促進する。EID-1は分化を促進する転写コアクチベーターであるp300のヒストンアセチル化酵素(HA℃活性を阻害することによって分化を抑制する。癌のみならず正常の組織発生においても、分化機構の解明は非常に重要なテーマであり、特に幹細胞から種々の組織へ分化する機能については不明な部分が多い。EID-1の機能の解明は発生過程における分化機構の解明、さらには再生医学においても重要な意義がある。本研究は、EID-1の機能の生化学的、細胞生物学的解析、正常組織の発生におけるEID-1の機能の解明、さらにEID-1が発癌機構においてどのような役割を担っているかを明らかにすることを目的とする。 [本年度の成果] EID-1がp300のアセチル化酵素活性を阻害する機構をさらに明らかにするために、P300の基質であるヒストンあるいはヒストン以外の基質として知られているp53との相互作用について、in vitroおよびin vivo結合アッセイによって検討した。その結果、EID-1はヒストンH3と結合するがp53とは結合しなかった。またEID-1はp300によるヒストンH3のアセチル化は阻害するが、P53のアセチル化は阻害しなかった。これらのことからEID-1のp300の機能阻害の機構には、P300への直接の結合の他に、基質であるヒストン1への結合が必要であることが明らかになった。 [考察] 本研究によってEID-1の機能の生化学的な詳細が明らかになった。この結果から、dominant negative変異体の作成や、どの部分の突然変異が機能上重要であるかが推測できる。今後これらの知見をもとにES細胞や実験動物を用い、EID-1の過剰発現あるいは機能喪失実験によって正常発生におけるEID-1の役割を明らかにする。また、臨床検体を用いてヒト癌におけるEID-1の変化を検討し発癌における役割について検討する。
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