アルツハイマー病(AD)は原因不明の神経変性疾患で老人性痴呆の中で最も高い頻度を示し、その治療法も確立していない。我々はADの神経変性および神経細胞死に焦点をあて、神経細胞変性に伴う分子異常を検索している。その過程でADの変性神経細胞でイソアスパラギン酸メチル転移酵素(PIMT)の発現が亢進していることを見い出した。PIMTの発現亢進は基質であるイソアスパラギン酸(isoAsp)の過剰形成による代償作用によると予想された。isoAspの形成は非酵素的な反応で生成することから蛋白質老化の指標として注目されている。本研究では個体老化の過程でisoAspの形成量がどのように変化し、変性蛋白質の形成にどのように関与するか調べることを研究目的にした。 3、6、9、12、18、24、30ヶ月齢のマウス脳のからシナプトソーム画分とミエリン画分を分画し、それぞれの分画の加齢におけるlsoAsp量の変化を調べた。その結果、年齢に影響せず、いずれの分画も100-200pmoIisoAsp/mg proteinという値であった。この値は12ヶ月齢野生型マウス全脳抽出物の値と一致した。一方、PlMT欠損マウス脳の解析では、欠損マウス脳抽出物は700-1000pmolisoAsp/mg proteinの蓄積が認められている。これらの結果から、老齢個体脳においてもPIMT蛋白質が修復酵素として働き、isoAsp形成の量を調節していることが示唆された。ADでは老人班の主成分のアミロイドβ蛋白質や神経原繊維変化の主成分であるリン酸化タウ蛋白質に過剰のisoAsp修飾が報告され、異常凝集との関連が疑われている。以上の解析と考え併せるとADの発症の過程で特異的な蛋白質にisoAsp修飾が生じ、PIMTによる修復を免れることによって異常凝集することがAD発症の引き金の可能性となりうることを示した。
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