タンパク質イソアスパラギン酸メチル転移酵素欠損マウス(PIMT欠損マウス)は進行性のてんかん発作により生後12週までに100%死亡する。また、PIMT欠損マウス脳にはイソアスパラギン酸残基(IsoAsp)が形成したタンパク質が野生型マウスに比べて7-10倍蓄積している。異常なIsoAspの蓄積とてんかん発症の関連が示唆されている。PIMT欠損マウスは酵素欠損による遺伝性疾患モデルであるので、遺伝子治療の対象となる。本研究ではトランスジーンまたは組み換えアデノウイルスを用いた本遺伝子の補充療法を試み、モデルマウスのIsoAspの修復とてんかん疾患に及ぼす治療効果を調べた。トランスジェニックマウスと交配することで神経系にPIMT遺伝子を発現したPIMT欠損マウスは生育の遅延、痙攣発作を認めず生存することが確認された。また、欠損マウスの海馬で認められるグリオーシスも完全に抑制していた。PIMT欠損マウスのIsoAspの蓄積を生化学的に検討した結果、トランスジーンが高率に発現していたマウスはIsoAspの蓄積が野性型と同程度に修復していたが、トランスジーンが低発現のマウスではIsoAspの蓄積の修復が部分的であった。 PIMT欠損マウス胚の脳から神経細胞を分離し、培養神経細胞を得た。培養2日後にPIMTアデノウイルスを感染させた。1週間後、PIMT欠損初代神経細胞は野生型胚由来の神経細胞に比べて5-7倍IsoAsp含有タンパク質の蓄積が認めれるが、PIMTアデノウイルスを感染させたPIMT欠損初代神経細胞内のIsoAspの蓄積は50%であった。この結果からPIMTアデノウイルスを用いた遺伝子治療は神経細胞に対して効果的であり、IsoAsp残基の形成により変性したタンパク質の修復に効果があることが判明した。次にin vivoにおけるPIMTアデノウイルスによる遺伝子治療効果を調べた結果、個体の成長に伴い外来PIMT遺伝子の発現は低下するが、生後15週まで発現が確認できた。また、欠損マウスの致死性てんかん発作と生育遅延を改善し、生育延命効果が認められた。
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