研究概要 |
染色体転座を伴い、出生時より著明な脳発達障害が見られる2症例の病因遺伝子の同定を目的として本研究を行った。対象となった症例は、(1)染色体2q22と13q22の間で相互転座があり、重度な知的障害、運動発達遅滞、てんかん、巨大結腸症、特徴的な顔貌が見られる症例(症例1)と、(2)染色体6q16と12p12の間で相互転座があり、重度な精神運動発達遅滞と咽頭喉頭部に形態異常の見られる症例である(症例2)。両症例ともに転座部位に局在する遺伝子が病因遺伝子と考えられたので、初めにRP11-BACクローンを用いたFISH法で染色体上の転座部位を限定した。症例1では、2q22に転座とともに約5Mbの染色体欠失が見られ、欠失部位に局在する遺伝子が病因遺伝子と考えられた。その中の遺伝子で、発生・分化に関与すると考えられるZFHX1B遺伝子(Smad-interacting Protein 1:SIP1をコードする)に注目し、同じ症状を呈し染色体に異常のない症例の同遺伝子を解析した結果、複数の症例からナンセンスあるいはフレームシフト変異を認め、ZFHX1B遺伝子が本症の病因遺伝子であることがはじめて明らかになった(Nature Genet,2001)。その後、巨大結腸症のない重度の知的障害の症例や知的障害が軽度の症例からも同遺伝子の変異が同定され、SIP1欠損症の多様な臨床像が明らかになった(Am J Hum Genet,2001;Neurology,2002)。一方、症例2では6q16のDKFZp564B0769遺伝子の上流約9kbで転座が生じていたが、転座に伴う明らかな染色体の欠失は見られなかった。片方の第12番の染色体に関しては、転座断点部位を1Mb以下に限定しているが、その近傍のゲノム構造がまだ完全には解明されていないので、断点部の同定には至っていない。
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