研究概要 |
本研究においては膵臓がんにおけるヘテロ接合性の集中領域である染色体領域12q21-q23.1に存在し、膵臓がん培養細胞において高頻度の発現消失あるいは滅弱を認めるDUSP6/MKP-3の膵臓がん細胞に対する増殖抑制効果およびこれを用いた膵臓がんの遺伝子治療の可能性について検討することを目的とした。平成13年度の時点でDUSP6/MKP-3挿入非増殖型アデノウィルスベクターの作製およびin vitroでの膵がん細胞への感染実験を行い、感染細胞におけるMOI依存的な組み換えDUSP6/MKP-3の発現およびその増強、MAPK活性の低下、細胞増殖の抑制、コロニー形成の減少が認められ、FACS解析により感染細胞はapoptosisに陥っていたことを報告した。平成14年度において、膵がん培養細胞に対するDUSP6/MKP-3導入効果と内因性ERK, DUSP6/MKP-3の関係を詳細に解析し、内因性ERKの活性はMKPファミリー分子であるMKP-1,MKP-2よりも内因性DUSP6/MKP-3の発現に依存する傾向が認められ、さらに、内因性DUSP6/MKP-3発現細胞ではDUSP6/MKP-3導入による増殖抑制、細胞死誘導効果が減弱することが明かとなった。治療対象となりうるDUSP6/MKP-3不活化膵がんの臨床病理学的動態を知るために膵がん組織におけるDUSP6/MKP-3発現を解析したところ、膵がんの前がん病変と考えられている膵管内異形成病変においては発現は増強しており、逆にがん部では発現が減弱している例が多く、とくに、低分化型膵がんでは特異的に発現が消失している例が多かった。ヌードマウス皮下移植膵がん細胞腫瘍に対する局注による実験的遺伝子治療では腫瘍抑制効果が一過性に認められたが投与量、方法を改良する必要があった。以上より、DUSP6/MKP-3導入の効果は内因性ERKの活性化の程度、DUSP6/MKP-3の発現に依存しており、特に低分化型膵がんにより効果的である可能性が示唆された.DUSP6/MKP-3は膵がんにおいて腫瘍抑制遺伝子として機能しているものと考えられ、DUSP6/MKP-3は膵がん治療の直接的、間接的標的として極めて有望である.
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