研究概要 |
本研究者は以前に膵騒癌組織では染色体領域12q21,12q22-q23.1に高頻度のヘテロ接合性の喪失を検出し、その領域の検索で12q22にDUSP6/MKP-3が局在することを見いだし、その発現が膵癌培養細胞株で高頻度に減弱、消失していることを明らかにした.DUSP6/MKP-3はMAP kinaseのひとつであるERKを特異的基質とするdual specificity phosphataseであり、ERKにより活性化されることからフィードバックループを作ってその機能を調節しているものと考えられている。膵癌ではKRAS2の機能亢進性変異が高頻度に認められ、それにDUSP6/MKP-3の発現減弱、消失による機能喪失があいまってERKの持続的活性化を来し、膵癌の増殖が促進されているものと仮定される.このフィードバック調節機能の喪失とそれが膵がん細胞の増殖に与える効果を解析し、新規の膵癌治療の標的としての有用性を検証するために、原発性膵癌組織におけるDUSP6/MKP-3の発現、膵がん培養細胞におけるMAPK, MKP分子群の動態の解析、アデノウイルスベクターによるDUSP6/MKP-3導入による膵がん細胞増殖、表現型の変化の解析、ヌードマウス皮下移植ヒト膵癌細胞腫瘍に対するアデノウィルスベクターを用いた実験的遺伝子治療を本研究において行った。結果、DUSP6/MKP-3の発現は膵管内異型上皮病変部では亢進しているが癌部では滅弱しており、特に低分化型癌部では特異的に発現が消失している例が有意に多かった.膵がん培養細胞における検討で内因性DUSP6/MKP-3の発現とリン酸化ERKの恒常的発現が逆相関する形で認められ、内因性DUSP6/MKP-3の発現喪失がERKの恒常的活性化を招いていることを示唆するものと考えられた。DUSP6/MKP-3導入により膵癌細胞の増殖の抑制、アポトーシスの誘導が認められ、その効果は内因性ERKの活性化の程度、DUSP6/MKP-3の発現に依存しており、特に低分化型膵がんにより効果的である可能性が示唆された。ヌードマウス皮下移植膵がん細胞腫瘍に対する局注による実験的遣伝子治療では腫瘍抑制効果が一過性に認められたが投与量、方法を改良する必要があった.以上より、DUSP6/MKP-3は膵がんにおいて腫瘍抑制遺伝子として機能しているものと考えられ、DUSP6/MKP-3は膵がん治療の直接的、間接的標的として極めて有望である。
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