研究概要 |
遺伝子検索に用いる骨軟部腫瘍症例約100例につき、画像情報、免疫組織化学の結果をふまえ組織学的に再評価を行った。その結果これらの症例の病理診断は妥当であると判断された。染色体分析を行い得た症例では、これまでに知られている腫瘍特異的な染色体転座を確認できた。明細胞肉腫(CCS)では8例全例でEWS-ATF1が検出された。興味深いことに1例を除き切断点の異なる複数の融合遺伝子が検出され、スプライシングにより生じる可能性が考えられた。これらの研究成果をふまえ、融合遺伝子検出用アレイ作製のための基礎的実験を行った。融合遺伝子の亜型が2種類と少なく、かつその切断点のバリエーションがほとんどない滑膜肉腫をモデルとしたマルチプレックスRT-PCRを用いた系では、SYT-SSX1、SYT-SSX2それぞれの融合遺伝子を区別して検出できることを確認した。さらに、SYT、SSX1、SSX2それぞれの遺伝子断片を貼り付けたアレイを作製しPCR産物をハイブリダイズさせたが、電気泳動で確認された融合遺伝子と同じ遺伝子配列と反応し、他の遺伝子配列とは反応しないことを確認し、マイクロアレイによる融合遺伝子検出が実現可能な方法であることがわかった。さらに、融合遺伝子のうちのひとつが同じ遺伝子で構成される異なった腫瘍群、すなわち,Ewing肉腫(EWS-Fli1,EWS-ERG)、明細胞肉腫(EWS-ATF1)、骨外性粘液型軟骨肉腫(EWS-CHN)、線維形成性小円形細胞腫瘍(EWS-WT1)についてマルチプレックスRT-PCR法により滑膜肉腫と同様に融合遺伝子の検出を試みた。その結果、これらの腫瘍群では、PCRのサイクル数や反応温度により目的とする融合遺伝子が検出できなかったり、非特異的反応が見られたりして、至適条件の設定が容易ではないことがわかった。この結果は、腫瘍の種類や融合遺伝子の組み合わせにより条件設定が必ずしも容易ではないが、融合遺伝子を有する肉腫のマイクロアレイを用いた遺伝子診断の実現に向けて重要な基礎的データとなると考えられる。
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