研究概要 |
基底膜物質は肺癌細胞の間質浸潤を負に調節している因子である可能性を想定し(Akashi 2001,JJCR,92,P93)、その分子機構の解析を行ってきた。平成14年度は肺腺癌細胞A549を用いたin vitroの癌細胞浸潤の実験系を作成し、癌細胞の浸潤に与える基底膜物質の影響を検討し、さらに癌細胞に発現している遺伝子の中で基底膜物質の存在下で発現の変化する遺伝子をcDNAマイクロアレイ法によつてスクリーニングした。HGF依存性浸潤を示すことが知られている肺腺癌細胞A549をI型コラーゲンゲル内で2週間培養すると、HGF非存在下では圧排性に増殖するが、HGF存在下ではコラーゲンゲル内を分散・浸潤性に増殖した。I型コラーゲンに基底膜物質マトリゲルを20-50%v/vで添加すると浸潤性増殖は抑制され、浸潤距離を計測すると、約30-10%に抑制されていた。基底膜物質の中ではIV型コラーゲンが有意に浸潤を抑制した。基底膜物質によつてA549細胞の遺伝子発現に変化がの存在下・非存在下でA549細胞からRNAを抽出し、これを33P標識したものをプローブとして、約8,000個のcDNAの中で発現の変化をきたしているものをスクリーニングした。その結果、基底膜物質の存在下で1/2以下に発現の減少する遺伝子を43個、2倍以上発現の増加する遺伝子を9個同定した。その中で発現が1/6以下に減少する遺伝子2個は細胞外器質や細胞骨格に関係した分子であり、癌細胞の浸潤に関係している可能性が強く考えられた。そこでこの遺伝子に焦点を絞り肺腺癌組織における発現の変化を現在検討中であり、臨床病理学的な検討を加えることによって、肺癌の進展過程におけるこれらの分子の意義を検討している。
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