研究概要 |
細胞外マトリックス蛋白質のひとつであるテネイシン-C(TN-C)は,組織再構築を伴う生体反応では早期から高度にその発現が認められる.TN-Cにはいくつかのスプライシング・バリアントが存在し,癌間質に特異的に発現するものも報告されている.しかし,癌組織におけるバリアント発現の生理的意義は全く不明である.そこで我々は,フィブロネクチン(FN)III反復のスプライシング部位(B-D)を特異的に認識するモノクローナル抗体(4C8)を作製した.正常乳腺組織あるいは良性乳腺腫瘍に比べ,乳癌組織ではB-Dを含むTN-Cが過剰に発現することが明らかとなった.すべてのバリアントを認識するTN-Cモノクローナル抗体(4F10)と比較すると,4F10は癌細胞間の間質に染色されたのに対し,4C8は癌細胞の浸潤面に特異的に染色された.癌組織の悪性の指標となるTN-Cは,B-Dを含むスプライシング部位が悪性癌細胞の浸潤をはじめとする病態形成・進行に重要な役割を担うことが考えられた.そこでB-Dに結合する蛋白質を,アフィニティーカラムを用いて検索しいくつかの分子を得た.これらから、量的に多い蛋白種のアミノ酸配列を検討したところ、アクチンとミオシンであり、膜蛋白は現在得られていない。細胞骨格蛋白が同定できることより、結合する膜蛋白には細胞内との結合を有する可能性が示唆される。細胞骨格蛋白の非特異的な吸着を防ぐとともに、生細胞のビオチンによる蛋白ラベルを用い、細胞外成分を標識し、さらに検討を続けている。量的には少ないが新しい蛋白種を見出し、アミノ酸配列を決定できる量を確保しようとしている。
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