研究概要 |
癌細胞は様々な局面において,細胞・細胞間,細胞・基質間の解離・接着を行い,形態,運動性,接着能変化させ,新たに組織再構築を行う.この際に,細胞外基質は単なる足場ではなく,その発現量,種類の変化,蛋白質分解酵素による破壊などの情報を細胞に伝え,細胞機能を直接変化させると考えられている.細胞外マトリックス蛋白質のひとつであるテネイシン-C (TN-C)は,組織再構築を伴う生体反応では早期から高度にその発現が認められ,特に癌組織に伴うTN-Cの発現量が悪性度の指標となることが報告されている.また,TN-Cにはいくつかのスプライシング・バリアントが存在するが,癌組織におけるバリアント発現の生理的意義は全く不明である.そこで我々は,フィブロネクチン(FN)III反復のスプライシング部位を特異的に認識するモノクローナル抗体などを用いて,癌細胞自身が選択的スプライシング部位含むTN-Cを高度に発現し,かつその発現が癌細胞浸潤面及び癌細胞増殖が活発な部位に一致すること,また培養細胞においてスプライシング部位が細胞の遊走能および細胞増殖を亢進させることを明らかにした.即ち,TN-Cのスプライシング部位が悪性癌細胞の浸潤・増殖など病態形成・進行に直接重要な役割を担うことが考えられた.TN-Cに結合する蛋白質はインテグリンファミリーなどが報告されているが,スプライシング部位に結合する分子やその情報伝達機構は不明な点が多い.そこでスプライシング部位に結合する蛋白質を,アフィニティーカラム法や大腸菌two-hybrid法を用いて検索し,いくつかの分子を得た.その中で,分子量約75kDaの7回膜貫通型のレセプターと推定される分子が最も有力な候補であり,これはin vitroにおいてTN-Cと結合することを明らかにした.現在,この分子に対する抗体を作製中で,今後、in vivo,癌組織におけるTN-C発現との関連性を検討予定である.
|