研究概要 |
一般的に甲状腺乳頭癌は予後のよい悪性腫瘍として知られているが,甲状腺悪性腫瘍の90%以上を占めるこの腫瘍には現在種々の亜型が報告されており,その発生原因や臨床経過は様々である。しかし,各々が独立した疾患概念として認められるべきか否かは未だ十分に解析されているとは言い難い。甲状腺乳頭癌が家族性大腸ポリポーシスに合併することは古くから知られており,近年その組織像や免疫組織化学的染色結果の特徴が次第に明らかになるにつれて一つの臨床病理学的な疾患概念として定着しつつある。家族性ポリポーシスに合併する甲状腺乳頭癌は,圧倒的に女性に多く,組織学的に篩状構造,morule形成,ビオチン含有淡明核などが特徴的である。免疫組織化学的にも,βカテニンが核にも陽性を示すことが特異的であり,さらに,estrogen receptorやprogesterone receptorも陽性である。この亜型は病理学的にはcribriform-morular variantと呼ばれており,ポリープが出現する前に甲状腺腫瘍が発見される場合もある。しかし,この組織型はポリポーシスを有さない症例でも出現することがあり,この亜型がAPC遺伝子の胚細胞変異を有しているのか,あるいは体細胞変異を有しているのかはその発生に関して非常に興味深い。我々は,現在cribriform-morular variantの5症例を集めており,それらの腫瘍を対象に,免疫組織化学的検索,ならびにAPC遺伝子や甲状腺乳頭癌でしばしば陽性となるret/ptc遺伝子の検索を行なっている状態である。また,その他の組織型として,甲状腺全体にびまん性に浸潤し,高頻度にリンパ節転移を来す予後不良の亜型として知られているび慢性硬化型乳頭癌についても,その悪性度と細胞接着因子との関連を研究している。
|