本年度の研究実績 maspinは癌の浸潤及び転移を抑制する、いわゆる癌抑制遺伝子として近年注目を集めているが、正常乳腺組織の筋上皮細胞で発現が見られることが報告されている。一方、浸潤性乳癌ではその発現が低下するといわれており、リンパ節転移陰性乳癌においても新たな予後因子としての役割が期待される。しかしながら、人体材料を用いた系統的な研究はまだ報告されておらず、今回まず、浸潤性乳管癌168例について免疫組織化学的にmaspinの発現を検索し、予後との関連を調べた。その結果、以下のような結果が得られた。 1)maspinの発現は浸潤性乳管癌のうち46例(27.4%)に見られ、組織異型度(P=0.0001)、腫瘍径(P=0.008)及びp53 status(P=0.003)と正の相関が認められた。 2)maspinの発現はリンパ節転移の有無とは関連がなかった。 3)maspinの発現はEstrogen receptor(P=0.0004)及びProgesterone receptor(P=0.002)の発現と逆相関した。 4)単変量解析(log-rank test)ではmaspinの発現は無病再発期間(P<0.0001)及び全生存期間(P<0.0001)いずれとも逆相関した。 5)多変量解析(Cox' proportional-hazards model)ではmaspinの発現は最も強力な予後不良因子であった。 以上の結果より、リンパ節転移陰性乳癌においてもmaspinは新たな予後因子となり得る可能性が示唆された。また、非浸潤性乳管癌においては9.6%(14/145)にmaspinの発現がみられ、しかも悪性度の高い例に有意に高頻度であった。
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