乳癌患者の予後因子として現時点において最も信頼できる指標はリンパ節転移の有無、個数とされているが、通常の病理組織学的検索によってリンパ節転移陰性と診断された乳癌患者(以下no乳癌と略す。)の約15〜20%は術後10年以内に転移によって死亡することが知られている。そこで、no乳癌の適切な予後因子を見出すことができれば術後の補助療法の指標になることが期待される。今回、通常のH.E.染色では検出できないmicrometastasesに着目し、免疫組織化学的検討を行い、予後との関連を検索した。対象は148例のno乳癌、平均年齢は52才、術後の平均follow-up期間は98.5ヶ月であった。ホルマリン固定パラフィン包埋されたリンパ節1454個(1人当り9.8個)と抗Cytokeratin抗体を用いてLSAB法にて免疫染色を行った。同時にp53の発現についても検索した。Micrometastasesは14.2%に認められ、腫瘍径、ホルモンレセプター、組織異型度とは有意な相関はなかった。Log-rank testでは無病再発率(P=0.0009)、生存率(P=0.0001)いずれにおいても強い相関を示した。また、Coxモデルによる多変量解析では無病再発率(P=0.0053)、生存率(P=0.0035)いずれにおいても唯一、独立した予後不良因子であった。これらの結果より、免疫染色によって検出されたmicrometastasesはno乳癌患者の予後因子として有望であると考えられた。 Maspinは浸潤、転移を抑制するいわゆる癌抑制遺伝子の一つとされており、正常乳腺で発現しているが浸潤癌では発現が抑制されるとされている。しかしながら、今回の研究によってmaspinは浸潤性乳癌の約27%に発現しており、悪性度の高い乳癌に有意に発現していること、しかも独立した予後不良因子であることを見出した。さらに、非浸潤性乳管癌の約9.8%に発現しており、やはりcomedo-typeの悪性度の高い癌に有意に多かった。今後はさらに症例数を増やしてno乳癌におけるmaspinの発現と予後との関連を検索する予定である。
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