p73遺伝子の発現調節による細胞増殖制御と医学への応用

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13670182
• 研究機関: 札幌医科大学
• 研究代表者: 一宮 慎吾 札幌医科大学, 医学部, 講師 (30305221)
• 研究分担者: 佐藤 昇志 札幌医科大学, 医学部, 教授 (50158937)
• キーワード: p73 / p53 / 細胞周期

研究概要

<背景>より効果的ながん治療を目指して、種々の細胞周期制御分子やアポトーシズ関連分子が標的となり新たな治療法の開発が行われている。中でもがん抑制遺伝子p53は最も注目を集めている分子の一つであり、これに着目した治療は一部で実用化されている。しかしながら、変異型p53の影響により増殖抑制効果が十分に発揮されない場合があり、新たな方法論の確立が待たれている。
<目的>p53関連分子であるp73は、p53と同様に細胞周期を抑制しアポトーシスを誘導することから、我々は多くの腫瘍を対象に遺伝子変異解析を行ってきた。その結果、p73遺伝子はp53遺伝子とは異なり、変異頻度や遺伝子欠損頻度が極めて低いことが明らかとなった。従って、p73遺伝子発現を高めp53の機能を補填することができれば、腫瘍細胞の増殖抑制が可能となる。本研究では、p73の発現を促す物質(p73 promoting factor)の検索を目的とする。
<研究状況>昨年度に開発したヒト胸腺上皮細胞株を用いたp73 promoting factorの検索系で、引き続き探求している。エゾバフンウニのアリストテレス提灯の分画の一つがヒト胸腺上皮細胞株のp73の発現を増強するという事実を得たが、未だこの分画物質の解明には至っていない。また、いくつかの報告があるよう、p53関連分子の一つであるp63もp73の機能を補完する可能性が示唆されている。昨年度の報告にも一部示したように、p73やp63といったp53関連分子が胸腺上皮細胞に発現していることを明らかにし、それらのT細胞分化における機能分担を示唆した(投稿中)。こうした正常組織での機能的役割を研究する側面からも、生理的なp73 promoting factorの検索を続け、臨床応用への礎としたい。

研究成果

• [文献書誌] Sato Y, Sahara H, Tsukahara T, et al.: "Improved generation of HLA class I/peptide tetramers"J Immunol Methods. 271・1-2. 177-184 (2002)
• [文献書誌] Sato Y, Nabeta Y, Tsukahara T, et al.: "Detection and induction of CTLs specific for SYT-SSX-derived peptides in HLA-A24(+) patients with synovial sarcoma"J Immunol. 169・3. 1611-1618 (2002)
• [文献書誌] Sahara H, Nabeta Y, Torigoe, T, et al.: "A gene encoding human gastric signet ring cell carcinoma antigen recognized by HLA-A31-restricted cytotoxic T lymphocytes"J Immunother. 25・3. 235-242 (2002)
• [文献書誌] Ichimiya S, Kojima T, Momota H, et al.: "p73 is expressed in human thymic epithelial cells"Journal of Histochemistry and Cytochemistry. 50・4. 455-462 (2002)
• [文献書誌] Ichimiya S, Nimura Y, Kageyama H, et al.: "Genetic analysis of p73 localized at chromosome 1p36.3 in primary neuroblastomas"Medical and Pediatric Oncology. 36・1. 42-44 (2001)
• [文献書誌] Ichlmiya S, Nakagawara A, Sakuma Y, et al.: "p73 : structure and function"Pathology International. 50・8. 589-593 (2000)
• [文献書誌] 分担執筆: "免疫学事典(第2版)"東京化学同人. 831 (2001)