p73はがん抑制遺伝子p53の相同分子で、ほとんどの悪性腫瘍でp73遺伝子の変異頻度ならびに欠損頻度は非常に低く、p53と同様の機能を有するととが示されている。このことから我々は腫瘍細胞において内在するp73遺伝子の発現を高めることができれば、新たな癌治療に結びつく可能性があるとの着想に至った。この度の研究成果を以下にまとめた。 1.p73に特異的な発現機構:p73はヒト胸腺の髄質上皮細胞や被膜下上皮細胞に高発現し、皮質上皮細胞では発現していないことを初めて明らかにした。この分布様式からP73には特異的発現機構が存在することが予想された。ヒト胸腺上皮の初代培養系を確立し、現在は接着分子などのさまざまな細胞表面マーカーを用いて髄質上皮細胞の単離を試みている。この実験系を用いることによって、p73の発現調節に関する特異的機構を解明したい。 2.p73の新機能:ヒト胸腺上皮細胞株を用いた解析からp73はM-CSFやGM-CSFの発現に関与していることが示唆され、髄質での樹状細胞などに影響しネガティブ選択を支える重要な機構であることが予想された。現在までに知られている細胞周期に関連したp73の機能に加え、これらのサイトカインの発現に関連した樹状細胞の賦活化など免疫系を介した抗腫瘍効果も期待される。 3.p73の発現制御物質の解明:また札幌医科大学附属臨海医学研究所の協力により海洋生物由来の生理活性物質を多角的に検討し、p73の発現を高める物質を探した。その結果、エゾバフンウニのアリストテレス分画の一部が胸腺上皮細胞株のp73の発現を高めるという興味深い実験結果を得た。今回の研究期間内では物質の同定には至らなかったものの、本研究が大きく展開するための一途を見いだせたと考えたい。
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