API2-MALT1キメラ遺伝子はt(11;18)から同定されたMALTリンパ腫特異的な遺伝子異常である。その陽性率は臓器により異なると考えられている。しかし、この遺伝子異常の持つ臨床病理学的意義はいまだ明らかではない。われわれはパラフィン切片を用いて、この遺伝子異常を簡便かつ高感度に検出するmultiplex RT-PCR法を開発し、肺、胸腺、および皮膚MALTリンパ腫を中心に、API2-MALT1キメラ遺伝子の持つ臨床病理学的意義を多数例により検討した。その結果、API2-MALT1キメラ遺伝子は肺MALTリンパ腫において高率に認められたが、胸腺、および皮膚MALTリンパ腫では陽性例を認めなかった。さらに、肺MALTリンパ腫において、API2-MALT1キメラ遺伝子は自己免疫疾患とは独立したリンパ腫発生因子であること、陽性症例は臨床的にややindolentであり、"典型的"な組織像を示すことを明らかにした。これらの結果からキメラ遺伝子陽性MALTリンパ腫は、特徴的な臨床病理学的亜型を形成することが示唆された。胸腺MALTリンパ腫はアジアに多く自己免疫疾患と強い関連を示す腫瘍であることが今回の研究で明らかとなったが、この腫瘍の解析でもAPI2-MALT1キメラ遺伝子と自己免疫疾患との独立性を支持する結果を得た。またBCL10核内発現との強い相関は肺MALTリンパ腫では認めたが、皮膚MALTリンパ腫では否定的で、BCL10免疫染色はAPI2-MALT1キメラ遺伝子の代用マーカーとしては限界があることも明らかになった。この他に、稀な食道MALTリンパ腫と尿管MALTリンパ腫におけるAPI2-MALT1キメラ遺伝子について報告した。
|