研究概要 |
本研究の主目的は低悪性度B細胞性腫瘍のhigh-grade transformation(HT)機構をcomparative genomic hybridization(CGH)法による遺伝子発現プロファイリングによって検討することである。平成14年度は前年度に引き続いて、検討対象の収集と、CGH法の基礎となるfluorescent in situ hybridization(FISH)法による検討を行った。 HT頻度の高い濾胞性リンパ腫35例について免疫形質の多様性について検討した。胚中心細胞のマーカーであるCD10,BCL6とmultiple myeloma oncogene(MUM)-1蛋白を中心に、免疫組織化学的に検討し、CD10またはBCL6が陰性の濾胞性リンパ腫ではMUM1が陽性となり、かつこのような例では腫瘍細胞の増殖様式が他の例とは異なる傾向が見出された(2003年3月25日、ワシントンDCにおいて開催の米国カナダ病理学会で発表) 細胞形態的に変化のない5例の濾胞性リンパ腫再発例を上記と同様に検索し、CD10,BCL6,MUM1発現様式に変化がない事を見出した。現在症例を収集中である。 FISH法により、BCL6遺伝子の存在する3q27を含む染色体転座がMUM1陽性濾胞性リンパ腫に比較的多い事を見出し、現在多数例において検索中である。 第一回彩の国さいたま病理診断セミナーにおいて、悪性リンパ腫と反応性リンパ節腫脹の病理組織学的鑑別、特に大型細胞(transformed cell)の出現する病変の診断法について講演した(2002年5月18日、大宮ラフレさいたま) サイトケラチンが陽性となる悪性リンパ腫の例を経験し、その細胞学的所見について報告した(第41回日本臨床細胞学会秋季大会、2002年11月2日、下関) 本研究の様な悪性腫瘍の遺伝子解析は、遺伝子疾患の遺伝子診断に比べて倫理的問題は生じにくいが、本研究では、試料提供者の人権を保護するために「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を順守し、病理解剖・病理診断を本来の目的とする標本採取の際の、研究趣旨の説明と同意を求める文書案を作成し、埼玉医科大学倫理委委員会の審議を受けた。結果、病理解剖の承諾書の改訂と病理解剖承諾の為の説明書が同委員会の承認を受けた。
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